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その8.≪「美白エステ」通いの、船頭さん?≫
歌舞伎や日本舞踊を初めてご覧になった方が、最初に抱く素朴な疑問
は、「どうして皆、こんなに真っ白けなの?!」ということだと思い
ます。先日拝見したアナザーカンパニーの公演で、水木由歌さんが、
ロウソクの灯りだけで「黒髪」を舞われました。インタビューの時に
「昔は、こんなに暗い中で踊ってたので、顔を白く塗ったのです。今
回は実際に、暗い中での白塗りの効果を観て頂きました」という主旨
のお話をされたので、成る程・・・と納得しましたが、それでは現代
の明るい照明の下で、敢えて白く塗る必要性は何なんでょうか?!古
風な雰囲気を出す為?着物に日焼けは似合わないから? 。
歌舞伎でも日本舞踊でも、何でもかんでも真っ白に塗る訳ではありま
せん。特に歌舞伎の世話物(江戸時代の現代劇のことです)では、男
性は肌色のままの場合が多いようです(ただし、女役と二枚目の男役
は、白く塗っています)。有名な「直侍」は、出番の直前に楽屋風呂
から上がって、顔だけトノコ化粧をしただけで、素肌に素袷を引っ掛
けて花道を出るのが、なんとも粋なのだと言う話を、以前ある役者さ
んが書いておられました。 。
僕が清元の「夕立」を、小猿七之助と滝川との芝居仕立てで演じた時
も、敢えて白く塗らないで、奴の頭に黒っぽい着物を尻っ端折りして
出ましたが、御殿女中をレイプにしたりする小悪党の感じが出ていた
と、多くの方に認めて頂きました。ところがその後、歌舞伎座である
役者さんの七之助を拝見したら、身体中真っ白けだったので、唖然と
しました。常磐津の「角兵衛」の角兵衛獅子も、以前はトノコ化粧に
スッポリの鬘だったのに、この頃は白塗りのイイ男で出る事が多くな
りました。多分、踊り手が綺麗にしたがるからでしょうネ。 。
江戸時代のカッコイイ職業であった「鳶」や「船頭」は、日本舞踊で
も度々取り上げられていて、1つのジャンルを形成しているほどです
が、殆んど例外なく、皆さん真っ白に塗って出ます。とはいっても、
少しはトノコも入ってるので、お殿様みたいに真っ白じゃないんです
が、一日中屋外で仕事をしてる人のようには、到底見えません。僕が
清元の「神田祭」を踊った時の写真を、「古典舞踊のサロン」に載せ
てますから、どれくらい白いか白くないか、ご覧になれば解って頂け
ると思います。 。
でも実際には、彼等はかなり日焼けしていて、それがまた余計に男性
的で、セクシーだったんじゃないでしょうか。それが舞台に乗った途
端、今流行の「美白サロン」に通ったみたいに、真っ白とは!!!も
ちろん「舞踊」ですから、生な美しさより様式美の方が大切でしょう
し、一年中アウトドア・スポーツを楽しんでる人みたいに、真っ黒に
塗る必要は無いでしょうが、もう少し自然な肌色で踊ってはいけない
んでしょうかネ?江戸時代と現代とでは、女性の美しさだけでなく、
男性の美しさの基準も、変わって来てると思うんですけど・・・ 。
舞踊家は男性でも、日焼けしてはいけないと言われてます。だから夏
でも、思いっきりアウトドアで楽しめません。とても不自然で、不健
康だと思います。「10代から30代にかけての、スポーツ万能の現
代的な青年が、サッカーやラグビーで汗を流した後、褐色に焼けた肌
にサッパリとシャワーを浴びて、サッと着物に着替えて日舞を踊る!
それがまた、何ともカッコイイ・・・」。そんな日舞じゃ、いけない
んでしょうか?生ッチロイ男しか踊っちゃいけない日舞なんて、何と
か日舞に目を向けてもらいたい現代の若い人達の美意識からは、スゴ
ク外れてるように思うんですけどネ! 。
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